先日、初めてお会いする方々と相模湖から高尾山まで山歩きをしました
不思議なのが、全員初対面なのに
ずいぶんどこか、親しみやすいような...
そう、名前を覚えていないけど懐かしい、同窓会のような感じがしました。
ひょっとして?と声にも出さず思っていたら
仕事も住む場所も違うけれど、やっぱり皆さん、歳がほぼ同じでした。
みんなでそのことに気がついて、「そうか」と皆で膝を打ったり。可笑しかったな。
子どものことに夢中になったものが同じで、
どんなものが面白かったか、
どんなものを不正と感じたか、
同時代を生きた少年や少女は、大人になっても、どの時代でも、
まるで忘れていた鉱脈のありかを思い出したみたいに
ふとした折に、心によみがえってくるもの。
道尾秀介さんの本を読んだことはありますか?
私はありませんでした。
以前に、TVで道尾さんが出ていたことがあったので、
メディアのおかげで、肝心の著作よりも先に、顔かたちを知りました。
直木賞を受賞されたときの映像だったと思います。
「白目のおおきな人だ」
と思いました。
「たぶん、わたしはこの人と、この人の本をあまり好きではないだろうな」
と勝手に(非常に勝手に...)、思いました。
だって、私も自分の目の白いところが気になることがあるから。
自分の気にしてる部分を人のなかに見つけると、ちょっと目を背けたくなりますよね?
そんなかんじ。
で
どういう訳があったか、直木賞受賞作「月と蟹」を近くの図書館で借りました。
私はいつも、何かの賞の受賞作なんて気にしたこともありません。
それは絵についてもそうです。
持論ですが、
およそ賞と名の付くものは、
それまでのその人の実績を踏まえた上で
安定感よし、ではこのあたりで表舞台に出しても良かろう、というタイミングで
選者の思惑の内に決定されるものと私は認識しています。
選に出すことで、選ぶ側も目を問われる訳だから、当然選者もいろいろ考えるでしょう。
もちろん例外もありますが。
(春樹さんは初めて書いた小説で群像新人賞を受賞しましたから!)
さてさてその図書館は、手書きのランキングが出入り口に貼ってあり、
どの本がよく貸し出されているか、どの本が予約が多いか、
トップ20くらいまで逐一分かるようになっています。
その内容が(小さな町だからか?)けっこう意外性があって
都会の大型書店のランキングには並ばなくなった本が上部に突然せり出してきたりして面白い。
個人的に村上春樹さんが大好きなので、その名前が上部に張り出されているのを
図書館に行くたびに目で追っていたら、
自然に目に入ってきた人が道尾さん。
こういうのも、まあ、縁ですよね。
「月と蟹」は鎌倉が舞台となった小説ですが、
実際読んでみると、道尾さん自身取材時に葉山に行ったと言っていただけあって、
海と町の近さや岩場の感じなどは鎌倉よりも葉山を感じさせます。
恐ろしげな昔の遺構、家族の抱えた過去、
読んでいるうちにこどもたちの心が沁み込んで来て、淡い波頭のように砕ける。
みずみずしい小説、それに少しミステリック。
謎のような、絵のような場面が重なって行く。
少年たちが見た建長寺の十王岩がどうしても自分の目で見たくなって、
読み始めた次の日に、舞台になった建長寺奥の山道を歩きに行ったり。
(昼間でも薄暗くて、誰もいなくて本当に怖かったな。)
この小説は確かに面白い小説でした。
直木賞の重みは私には分からないけど、
私から特別賞を贈りたい(また勝手な...!)と、思う。
他の人はどう感じるかわからないけれど、
この小説を書いた人は、私と同じ時間をこの世界で生きてきた人なんだ、と私は肌で実感する。
そういうのって、特別な気持ちです。
大げさに言うと、生きていく上で大切な気持ちです。
こうなってくるともう、
受賞の瞬間にぼんやりと顔を上げた道尾さんの頭のかたちとか
「何でもないよ、こんなこと」と言わんばかりに表情をぴたりとも動かそうとしないこと、
そのくせあの大きな白い目がきょろっと動いて、
ほんとは諸手を挙げて大喜びしたいんじゃないか?なんてことが
同じ白い目を持つ私には、解ってしまうことが、
なんだかすべて楽しいというか、
自分のことみたいに嬉しいんだ。
さて、初めて読んだ作品が気に入ると、あなたは次に何を読みますか?
デビュー作に手をつけるのもいいし、
最新作も捨てがたい。
今回道尾さんの作品をすっかり気に入った私は、
昨年ポプラ社より刊行されたエッセイ、「プロムナード」を選びました。
上記した相模湖~高尾の山歩きの際も、大きなザックにぽいっと放り込んで、
電車の中などでよんでいると、ああ楽しい。
もうすぐ読み終わってしまうのが惜しい。
でも、これから私が歳を重ねるのと同じように、
道尾さんも作品を出していってくれることが嬉しい。
私たちが大事にしてきたものを、ちゃんと根底からわかってて作品にしてくれる。
そういう作家さんがいるからこそ、私も制作を頑張ろうという気になるってものです。
道尾さん、頑張ってね!