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2011年2月アーカイブ

遠い風の音

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三寒四温という言葉のとおり、雨が降るごとに春は近づき
汗ばむような日曜日を越えて風と雨の月曜日を迎えました。

今日は2011年2月28日。個展「日々の葉音」の最終日。
北鎌倉まで足をお運び頂きました皆さま、本当にありがとうございました。

今回のように「絵画だけではない」試みは、私にとっては初めてのことです。
やってみようと決めて頑張ったけれど、同時に不安も多い展覧会でした。
でも、本の作品も、版画も活版印刷も、それぞれに
「私はこれが好き」と言ってくださる方がいる。
作品に添えられたリルケの詩に共感を抱く人がいれば、
製本の方法に興味を持つ人がいて。
その多様性と自由な意見が、とても嬉しいのです。

ギャラリーテラス.gif


でも今、自分を突き動かす衝動が、絵画の方へ、私を再び推し進めようとしています。
今回の個展で得たものを、私の里程標にして、この先へと歩いていきたい。
この先の自分の仕事が、何となく見えるような気がする。

うまく言えないけれど
こういう感覚は遠い場所から来た風のようなもので、
向こうから勝手にやってきて、私を通ってさっさと向こうへ行ってしまうもの。
正体を掴もうとしても、そんなに簡単に手にできるものじゃない。
ただ、漠然とした予感のようなものだけが私の中に残っている。
この予感を信じて、今後の制作を進めていくことになると思います。


私を一本の木に例える人が何人かいます。
土のくらやみから生まれて、風を受け、光を希求し、枝を伸ばす。私は木です。
根の底にある水脈を信じ、滋養に満ちた水を吸い、
照り返る葉から空へと虹を放つ。
大気のすみずみまで。

木々を揺らす風が、今日もさまざまな音を立てて通り過ぎて行く。
その葉音が、あなたにも聴こえたでしょうか。

円覚寺.gif

今年初のサクラ.gif
これは、今年になって初めて見た桜。
北鎌倉で発見しました。
ホームページを見てくださっている方へ、
一足早い春の訪れをお見せしたくて、写真を撮りました。
いくぶんしどけなく、下を向いて咲いているところが可愛らしい。



さて、次の展覧会は3月25日から28日。
大磯のエピナールで行われるLiving Art Shareに参加します。
私の一室のタイトルは「樹々を抱く森の部屋」。
アンティークなスタジオの一部屋を、花と木々、海の絵で満たします。
期間中は毎日コンサートがあったりと、エピナールの4日間は盛りだくさんです。
私も終日在廊予定。
ぜひ遊びに来てください。








心からの問いを誰かに投げかけたいとき
あなたはどこへ行くだろうか?
友達のところ?恋人のところ、家族のところ?

例え身近に誰もいなくても、もしあなたが
笑い事や皮肉では済ませられない人生の出来事にあたったとき
あなたの心を支え、次の一歩への後押しをしてくれる、
あなただけの神さまが住む場所があるのではないだろうか?
それは誰も踏み込めない、あなたが生きているということの証、あなただけの心の領域。

古代ローマの人々は、各家の中や街角に
Lararium(ララリウム)と呼ばれる小さな祭壇を作ったといいます。
壁を掘ったようなつつましい空間に素朴な絵で彩りを施し、
時に応じて祈りを捧げていたようです。

神棚も仏壇もない現代の家でも、
それぞれの心の中には、大切な場所があります。
私は絵を描くという行為を通じて、何度も問いかけをし、祈り、
私のこの辛く不安に満ちた制作を、どうか支えてほしいと願いをかけ続けてきました。
その祈りは、誰かに届くようなクリアな言葉には決してならないけれど、
わたしの身体を通して反響し、私を鍛え、描き続ける勇気を与えてくれているように思います。

ミンカで空の子どもを読む.gif

「空の子ども」の著者である坪内政義さんは、
何でもない日常の出来事を書きながら、静かに時が重なっていく美しさや悲しさを
誠実なまなざしで見つめ、文章で表現しています。
短くても、素晴らしい小説なのに、外に出さないことがもったいなくて、
今回、私が本にしてもよいか尋ねたところ、快諾してくださいました。

著者の持つ世界を、私の造本でどこまで表現できるだろうか。
文字組や装幀にこだわり、何度も失敗を重ねながら、この本を造りました。
最後に出来上がったとき、私の心は震えました。
この本は、私の手を離れて、人の心に寄り添うような美しい作品になったのではと思います。
写真は、北鎌倉のミンカという喫茶室で撮りました。


私の本の作品は、今回の個展でも「空の子ども」以外に
「青空切符」という手製本作品を出品していますが
この「空の子ども」をもって、塚本誠子の小出版の初作品、
Lab.Lararium(ラボ・ララリウム)によるLararium Books(ララリウムブックス)の初刊行作品にしました。
小出版、リトルプレスとは、大手出版社の流通を通していない本ということです。
できるだけ自分の名前を出さずに、本の著者を引き立てたいので、
編集や造本の著作名はLab.Larariumと呼ぶことしました。


あなたの本当の問いかけを捧げる場所。
あなたを支え、勇気づける、あなただけの神殿。
そうした場所の名をいただいて、
これからも、本当に良いと信じるものをつくりたい。
初めて作品を生み出したときの、心の震えを忘れずに。
このささやかに連なる日々の中で。
祈るように。






2月の個展「日々の葉音」は北鎌倉駅から徒歩8分のギャラリーで行われています。
初めて来る人にも分かるようにと思って地図を書いてみました。
クリックすると大きな地図になります。
参考にしてみて下さい。

nestへの行き方.gif


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