心からの問いを誰かに投げかけたいとき
あなたはどこへ行くだろうか?
友達のところ?恋人のところ、家族のところ?
例え身近に誰もいなくても、もしあなたが
笑い事や皮肉では済ませられない人生の出来事にあたったとき
あなたの心を支え、次の一歩への後押しをしてくれる、
あなただけの神さまが住む場所があるのではないだろうか?
それは誰も踏み込めない、あなたが生きているということの証、あなただけの心の領域。
古代ローマの人々は、各家の中や街角に
Lararium(ララリウム)と呼ばれる小さな祭壇を作ったといいます。
壁を掘ったようなつつましい空間に素朴な絵で彩りを施し、
時に応じて祈りを捧げていたようです。
神棚も仏壇もない現代の家でも、
それぞれの心の中には、大切な場所があります。
私は絵を描くという行為を通じて、何度も問いかけをし、祈り、
私のこの辛く不安に満ちた制作を、どうか支えてほしいと願いをかけ続けてきました。
その祈りは、誰かに届くようなクリアな言葉には決してならないけれど、
わたしの身体を通して反響し、私を鍛え、描き続ける勇気を与えてくれているように思います。
「空の子ども」の著者である坪内政義さんは、
何でもない日常の出来事を書きながら、静かに時が重なっていく美しさや悲しさを
誠実なまなざしで見つめ、文章で表現しています。
短くても、素晴らしい小説なのに、外に出さないことがもったいなくて、
今回、私が本にしてもよいか尋ねたところ、快諾してくださいました。
著者の持つ世界を、私の造本でどこまで表現できるだろうか。
文字組や装幀にこだわり、何度も失敗を重ねながら、この本を造りました。
最後に出来上がったとき、私の心は震えました。
この本は、私の手を離れて、人の心に寄り添うような美しい作品になったのではと思います。
写真は、北鎌倉のミンカという喫茶室で撮りました。
私の本の作品は、今回の個展でも「空の子ども」以外に
「青空切符」という手製本作品を出品していますが
この「空の子ども」をもって、塚本誠子の小出版の初作品、
Lab.Lararium(ラボ・ララリウム)によるLararium Books(ララリウムブックス)の初刊行作品にしました。
小出版、リトルプレスとは、大手出版社の流通を通していない本ということです。
できるだけ自分の名前を出さずに、本の著者を引き立てたいので、
編集や造本の著作名はLab.Larariumと呼ぶことしました。
あなたの本当の問いかけを捧げる場所。
あなたを支え、勇気づける、あなただけの神殿。
そうした場所の名をいただいて、
これからも、本当に良いと信じるものをつくりたい。
初めて作品を生み出したときの、心の震えを忘れずに。
このささやかに連なる日々の中で。
祈るように。
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